万物生

地面が濡れている。夜のうちに雨が降ったようだ。
 
このあいだ、「雨の名前」「風の名前」という本を紹介していただいた。
届いたその本から、こんなときの雨はなんというなまえだろうと探してみた。

万物生(ばんぶつしょう)
春の雨をいう。生きとし生けるものに新たな生命力を与えるということだろう。
ものみな萌えいずるとき、しかし春はまた残酷な季節でもある。昭和十四年、詩人立原道造は、東京・江古田のサナトリウムの窓から青みはじめた麦畑を見つめながら、二十四歳の生涯を閉じた。
「五月の風をゼリーにして……」とつぶやきながら。

 
一昨年の昨日に、お世話になった方をおくった。
まだ五十代の前半で若々しくおられた。
葬儀のあとで郊外に出かけると、木々の葉が空にむかってぐんぐんと伸びていた。

いまごろの雨あがりは、そんなことを印象深くする。
 

雨の名前

雨の名前