何必館

雨。
夕方、大阪での用を終えて、電車に乗るとき、阪急の出しているミニコミ紙を手にした。
紅葉の記事と、日本の美の記事。「近代芸術家の書展」というコラムの、力強い書にひかれて、予定を変更、はじめてゆく美術館のその展覧会を見に行くことにした。四条河原町から祇園方向へと人混みのなかを駆ける(ちなみに、紬のきものに桐草履着用)。
 
何必館(かひつかん)京都現代美術館*1
 
クローズぎりぎりに着いた。居られたのは30分ほどだったけれど、ここに来ることができて、よかった。
展示されている書もだけれど、美術館の空間自体が、よかった。
こぢんまりしているけれど、そのぶん閑かで、素っ気ないほどいろどりを排除した、木質のあたたかみもある、うつくしい空間。いちばん上の階には、丸く天窓をあけた小さな坪庭があって、もう暗くなったその空間に、楓の木が一本。まだそぼふっている雨が入ってくる。最後の客になって、私ひとり。
 
こころさわがしい3日間だった。3日間だけではなく、さわがしくしていたのだった。
さわがしくしていても何も解決しないし進みもしない。
ほんのわずかだけれど、この空間で過ごすことができて、よかった。
外は雨でぐちょぐちょで商店にモノがあふれ観光客のひしめいている祇園の繁華街、そんな並びの小さな間口の、こんなところにすぐ、これだけの空間がまもられている。そんなことも、よかった。
 
館のなまえは「何ぞ必ずしも」と疑うことの意からという。
またいつか、なにもないときに、ゆっくり行きたい。