装いと敬意

夕方、地下鉄に乗っていた。
斜め前に、20代後半かな、若手の女性が腰掛けている。他にもたくさんの人がいるのに、その人にばかり目がゆく。
 
色づかいとスタイルが、さりげなく、でも細心に行き届いているんだ。
バッグは大きめのやわらかそうなキャメル色の革にゴールド系の鋲打ち。ブーツはこげ茶ほど暗くはない茶系。ショートコートは遠目には黒っぽく見える深緑。メガネフレームは一見グレイに見えるけれどカーキ系のスクエア型。髪の明るい栗色系メッシュにも合っている。
華美なものややたらに高価そうなものはひとつもないけれど、近づくとニュアンスのある春・秋系カラーでまとめたこころにくいコーディネート。姿勢もくずれずにすっきりとした姿。むむむ、なかなかやる。
周囲から浮かず、でも埋もれもしない、他者との関係のなかで自分を大切にする術をもつような人なんだろう。人との距離のとりかたをわきまえてもいるだろう。聡明な人だな。言い過ぎかな。
 
「外見にかまわない人というのは、人に敬意を払わない人、自己中心的な人が多い」
「おしゃれは、思いやり、対話」
と、ある尊敬する方から聴いた。そう思って過ごしてみると、心あたりがけっこうある。
 
高価さとは関係がなく、流行を追うこととも関係がなく、それでも身につけるものへの配慮から、けっこう知性のあんばいというか傲慢さというか粗雑さというか、そういうものが現れてしまう気がする。
 
このごろ気をつけるようにしてきたつもりだったけれど、今日の彼女など見ると、私などただ無難に収まろうとしているようでもあり、このあたりでいいやと妥協しているようでもある。そして、気の抜けた姿で人前にいたりする。そんなことを省みさせてくれた地下鉄の時間でありました。