手塩

酒蔵見学。
貸し切りバスに乗って、ずいぶん郊外の蔵にゆく。
酒造組合が主催している勉強会で、酒造りの工程を見にいったのだが、そこで働く人々に興味をひかれた。
 
若くてイケメンなのだが、杜氏で、米の蒸し具合や、麹のつくり方にこだわっている人だとか、しゃきしゃきとしたねーちゃんだとか、傍目にはどのような秩序になっているのかわからない貯蔵庫の段ボールを運んでいる人だとか、数人でずうっと、希少品の焼酎のラベルを手貼りしている一団だとか、おそらくはこの蔵のなかでだけ数十年働き続けてきたであろう朴訥で笑顔のすてきなおじさんだとか、段取りのよさげな事務所のねーちゃんだとか、気のいいおっちゃんのようでいて大所を見ているらしき社長さんだとか。
 
人口密度のかなり低そうな田舎町の、間口の狭いその奥の建物で、こんなにも多様な仕事人さんたちが日々働いているのだった。悪くないな。端でいうのもすじあいではないかも知れないが。米や水や菌や、温度、湿度、筋肉の力、日にち、そんなものの塩梅でもって、手塩にかけて、ひとつものをつくる。人目につく場所でなくてよく、人にとりいらなくてよく、かといって、周囲にはじぶんの仕事がわかって働く人たちがいて、じぶんの分の役割を慌てないが怠けないで取っている。…とそんなふうに見えた。